子どもに小さい頃から英語を教えていると、日本語だけで育った同年代のお子さんより語彙が少なく見えることがあります。
「深く考えられないのでは?」
「複雑なことを表現できないのでは?」
そんな不安を感じる方もいるかもしれません。
私の子どもも、一時期海外で生活していた影響からか、日本語の語彙は同年代と比べると少なく感じることがあります。
本当に将来も語彙は少ないままなのか。セミリンガルになってしまうのか。気になって調べてみました。
「セミリンガル」や「ダブルリミテッド」とは?その違いは?
「セミリンガル」とは
バイリンガルの子供がどちらの言語も十分に使いこなせず、
両方の言語が弱いとみなされる状態を指します。
バイリンガルの子供はどちらの言葉も中途半端になる
という主観的な印象を元に使用されるようなった用語です。
「ダブルリミテッド」とは
セミリンガルとほぼ同義で使われていますが、
より新しく使われるようになった言葉で、
ネイティブスピーカー(モノリンガル=一つの言語のみを話す人)より
語彙や文法のテストの点数が低いこと示すときに使われた、
より客観的な、語彙力や文法力のモノリンガルとの格差に焦点を当てた用語です。
Ouchi Eigo Lab2つの用語の違いについては、
それぞれの用語の歴史を見ていただくとわかりやすいので、
ご興味のある方は次の章を読んでみて下さい。
こうしたバイリンガルの子ども達は、
言語力の不足によって学習面や社会面で不利になる
と考えられていました。
その背景には、
「2つの言語に触れることで、どちらも十分に習得できなくなるのでは」
という考えがありました。
そのため、どちらの言語にも弱さを感じる子どもを
「言語的に問題がある」
と位置づけるための用語として
「セミリンガル」「ダブルリミテッド」などの用語が使われてきました。
「セミリンガル」「ダブルリミテッド」の歴史(興味のある方へ)
Ouchi Eigo Lab歴史を学ぶとセミリンガルダブルリミテッドについて、よく理解できると思います。ご興味のある方は読んでみて下さい。
「セミリンガル」の歴史
「セミリンガル」という用語は、
1960〜1970年代ごろ に、
主に 北欧やヨーロッパの教育研究 で使われ始めました。
当時は、移民や少数言語の子どもたちが、
家庭の言語(母国語)と学校の言語(第二言語)の両方でうまく表現できない場合、
「どちらの言語も不十分」とみなされていました。
そのため、
「半分しか言語ができない」→ セミリンガル
という用語が生まれたのです。
当時は
「二言語に触れると混乱して中途半端になる」
という考え方がまだ強い時代でした。
「ダブルリミテッド」の歴史
「ダブルリミテッド(double-limited proficiency)」は、
1970年代後半〜1980年代 に、
主に 北米のバイリンガル教育研究 で広まりました。
こちらは、セミリンガルより少し“専門用語”っぽい表現で、
標準テストのスコアがモノリンガルと比べて
両方の言語能力が低く見える子ども を指して使われました。
つまり、
どちらの言語能力も「制限されている」ように見える状態
という意味合いです。
「セミリンガル」や「ダブルリミテッド」は差別用語?
日本では「セミリンガルは差別的だと考えられるようになり、
代わりにダブルリミテッドがよく用いられるようになってきている」
と言われているようです。
結論から言うと、
「セミリンガル」も「ダブルリミテッド」も
科学的にも社会的にも不適切な用語 とされ、
欧米の研究分野ではほぼ使われていないようです。
「セミリンガル」は差別用語?
「セミリンガル」は現在は差別用語だと言われています。
その理由は、
「セミリンガル」という用語が、
ネイティブスピーカー(モノリンガル=一つの言語のみ話す人)と比べた
バイリンガルの欠陥に焦点を当てた差別的な表現
として認識されるようになったためです。
他にも以下のような問題があり、
現在は使用されなくなってきています。
- 子どもを欠如のある存在としてラベルづけしてしまう
- 移民や少数言語の子どもに多く使われ、文化を軽視する場合がある
- バイリンガルが問題であるかのような誤解を生む
「ダブルリミテッド」は差別用語?
「ダブルリミテッド」も差別的です。
ダブルリミテッドは、英語ではdouble-limited proficiencyといい、
「どちらの言語能力も“制限されている”ように見える状態」という意味合いだからです。
代わりに使える用語は?
現在では「dual-language learner(二言語学習者)」や「emerging bilingual(エマージングバイリンガル)」といった
成長を前提とした前向きな表現が使用されるようになっています。
Ouchi Eigo Labこのブログでは、わかりやすさを優先するため
セミリンガル(ダブルリミテッド)という用語を使って説明していきます。
「セミリンガル(ダブルリミテッド)」だと、深い思考ができない?
これは大きな誤解です。
一つの言語の語彙量だけで、思考力が決まるわけではない
ということが最新の研究や経験からわかってきています。
- 言葉が完全でなくても、子どもは複雑な考えを組み立てられる。
(De Houwer et al., 2013; Poulin-Dubois et al., 2016) - 両方の言語を合わせた総語彙量 は、モノリンガルと同等かそれ以上のことが多い。
(Poulin-Dubois et al., 2016) - 語彙の差は通常一時的で、言語を使ったりや触れたりする時間が増えることで急速に伸びる。
(Kaushanskaya & Marian, 2022) - 深い思考は脳で行われる ため、一つの言語の語彙量によって思考は制限されない。
(Vende et al., 2015; Psychonomic Bulletin & Review, 2022) - 認知研究でも、バイリンガルはモノリンガルと同等か、柔軟性や視点の取り方で優れることがある。
(Vende et al., 2015; De Houwer et al., 2013)
おうち英語や、早期英語教育はセミリンガルのリスクになる?
結論から言うと、ありません。
最新の研究では、子供に英語を教えることや早期英語教育自体が
言語発達を阻害することはないと言われています。
- 研究では、子どもが両方の言語に十分に触れ合っていれば、
自然に言語が発達します
(De Houwer, 2013; Poulin-Dubois et al., 2016)。 - 早期に英語など第二言語を学び始めても、すぐさま問題が起こるわけではありません。
重要なのは、両方の言語を長期的にサポートする環境です。
家での会話、読み聞かせ、遊びなど、日常生活で使う機会を持つことが大切です。 - リスクが生じるのは、一方の言語の発達が不十分な場合です。
例えば、日本語のインプットが十分でなかったり、実際に使う機会が少ない場合です。
こうした状況では、語彙や表現の発達に偏りが生じることがあります。 - しかし、両方の言語にバランスよく触れさせることで、
語彙の偏りや「両方不十分」という状態は、ほとんどの場合回避できます。
実際、早期バイリンガルの子どもは、
概念語彙(意味理解)においてモノリンガルと同等かそれ以上であることが多い
と報告されています
(De Houwer, 2013; Poulin-Dubois et al., 2016; Kaushanskaya & Marian, 2022)。
「セミリンガル(ダブルリミテッド)」を防止するための対策は?
それでも、親としては「どうすれば子どもがセミリンガル/ダブルリミテッドにならないか」が気になります。
研究によれば、重要なのは 両方の言語を一貫してインプットすること です。
- 十分な触れ合い: 日常の会話、読み聞かせ、歌などを両方の言語で行うこと。短時間でも頻繁に行う方が効果的(Paradis, 2011)
- 使用の機会: 自分の言葉で表現すること、質問すること、社会的な交流を通して両言語を使う機会を作る
(Hammer et al., 2014) - 弱い言語のサポート: 読み聞かせ、ガイド付き読書、言葉を使った遊びで語彙と流暢さを伸ばす
(Place & Hoff, 2011) - 得意言語の活用: 強い言語を伸ばすことで、自信や認知スキルが弱い言語にも転用されます
(Cummins, 2000) - 専門家のサポート: 両方の言語で遅れが見られる場合、言語療法士やバイリンガル教育者の支援が役立ちます(Paradis, 2011)
まとめると、「セミリンガル」という言葉は時代遅れで、
子どもが二言語習得で「どちらの言語も中途半端になってしまう」ということは、一般的にはほとんどないようです。
大切なのは、両方の言語に触れる量と使う機会、そして必要に応じたサポート。
適切な環境があれば、子どもは自信を持って成長し、語彙力や思考力も伸ばしていくことができます。
「日本語が先?」は本当?英語を始めるベストなタイミング
結論から言うと、日本語を十分に習得するまで待つ必要はない
ということが、バイリンガルに関する研究結果からは示されているようです。
- 日本語が流暢になるまで待つ必要はない
- 二つの言語を同時に学んでも混乱しない
- 両方の言語に一貫して触れ合えるようにすることが大切
- 日本語のサポートは重要ですが、英語の開始を遅らせる必要はありません
- 英語は歌や物語、ゲームなど楽しく自然な方法で導入
(De Houwer et al., 2013; Hoff et al., 2012; Paradis, 2011)
Ouchi Eigo Labこの記事では、理解しやすいように「母語=日本語」「第二言語=英語」と置き換えています。
まとめ
バイリンガル育児でよく聞く「セミリンガル」「ダブルリミテッド」。
でも、最新の研究や専門家の見解からすると、その考え方はすでに見直されています。
- 片方の言語の語彙が少なく見えても、
両方の言語を合計すればモノリンガルの子どもと同等かそれ以上の語彙を持つことが多い - 語彙の偏りや一時的な少なさはごく普通で、
時間と適切な言語のインプットで自然に成長する - 認知能力や深い思考は、言語の量だけで決まらない。
実際、バイリンガルの子どもは柔軟な思考力や視点切り替え能力に優れていることが報告されている
大切なのは、「セミリンガル」という言葉や「不足」にとらわれることではなく、
子どもが両方の言語に十分触れられる環境をつくることです。
親としてできることは
- 日常生活の中で自然に両方の言語に触れさせる
- 絵本や歌、ゲーム、会話で楽しく言語を使わせる
- 小さな成長や努力をほめて、安心感と自信を育てる
まとめると、バイリンガルは「語彙が少ない=深く考えられない」ではありません。
むしろ、両方の言語を生かすことで、豊かで柔軟な思考力が育つと研究では示されています。
参考
順不同ですがご容赦ください。
- Hammer, C., Hoff, E., Uchikoshi, Y., Gillanders, C., Castro, D. and Sandilos, L. E., 2014. The language and literacy development of young dual-language learners: A critical review. Early Childhood Research Quarterly, 29(4), pp.715–733. doi:10.1016/j.ecresq.2014.05.008.ammer, C., et al. (2014) The Language Experiences and Proficiency of Dual Language Learners
- Place, S. and Hoff, E., 2011. Properties of dual language exposure that influence two-year-olds’ bilingual proficiency. Bilingualism: Language and Cognition, 14(2), pp.145–160. doi:10.1017/S1366728910000416.
- Cummins, J., 2000. Language, Power, and Pedagogy: Bilingual Children in the Crossfire. Clevedon: Multilingual Matters.
- De Houwer, A., Bornstein, M. H. and Putnick, D. L., 2013. A bilingual–monolingual comparison of young children’s vocabulary size: Evidence from comprehension and production. Applied Psycholinguistics, 35(6), pp.1189–1211. doi:10.1017/S0142716412000744.
- Poulin-Dubois, D., Crivello, C., Rodrigues, M., Friend, M., Zesiger, P. and Poulin-Dubois, V., 2016. The bilingual lexicon: A comparison of vocabulary in bilingual and monolingual infants. Developmental Science, 19(1), pp.1–15. doi:10.1111/desc.12312.
- Kaushanskaya, M. and Marian, V., 2022. Vocabulary limitations undermine bilingual children’s reading comprehension despite cognitive strengths. Reading & Writing, 35(2), pp.1–20. doi:10.1007/s11145-021-10240-8.
- Vende, A., Poulin-Dubois, D., Zesiger, P. and Friend, M., 2015. The effects of bilingual growth on toddlers’ executive function. Journal of Experimental Child Psychology, 131, pp.1–15. doi:10.1016/j.jecp.2014.09.004.
- Bylund, E., Antfolk, J., Abrahamsson, N., Olstad, A. M. H. and Lehtonen, M., 2022. Does bilingualism come with linguistic costs? A meta-analysis. Psychonomic Bulletin & Review, 29(5), pp.1–25. doi:10.3758/s13423-022-02136-7.
- Kaushanskaya, M. and Marian, V., 2022. Vocabulary limitations undermine bilingual children’s reading comprehension despite cognitive strengths. Reading & Writing, 35(2), pp.1–20. doi:10.1007/s11145-021-10240-8.
- PMC, 2017. Total vocabulary in bilinguals matches or exceeds monolinguals. PMC5842817. [online] Available at: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5842817/ [Accessed 23 Nov 2025].
- De Houwer, A., Bornstein, M. H. and Putnick, D. L., 2013. A bilingual–monolingual comparison of young children’s vocabulary size. Applied Psycholinguistics, 34(2), pp.1–20. doi:10.1017/S014271641200028X.
- Hoff, E., Core, C., Place, S., Rumiche, R., Señor, M. and Parra, M., 2012. Dual language exposure and early bilingual development. Journal of Child Language, 39(1), pp.1–27. doi:10.1017/S0305000910000759.
- Paradis, J., 2011. Individual differences in child English second language acquisition: Comparing child-internal and child-external factors. Linguistic Approaches to Bilingualism, 1(3), pp.213–237. doi:10.1075/lab.1.3.02par.


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